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退去費用のクリーニング代——「契約書に書いてあるから」は通用しない

「契約書に『退去時クリーニング費用は借主負担』と書いてあるので、払わなければいけませんよね?」——退去時に管理会社からこう言われて、そのまま支払ってしまった人は少なくありません。

しかし、特約があるからといって、必ずしも全額支払う必要はありません。消費者契約法や国土交通省ガイドラインに照らすと、無効になる特約が数多く存在します。

この記事では、クリーニング特約が無効になる条件実際の拒否方法を、裁判例を交えて解説します。クリーニング費用の一般的な考え方(相場・通常損耗との関係)については、クリーニング費用の解説ページもあわせてご覧ください。

⚠️ この記事のポイント
  • 「特約がある=必ず払わなければいけない」は誤り
  • 金額が明示されていない特約は消費者契約法で無効になる可能性が高い
  • 実際の裁判でも、不明確なクリーニング特約は否定されている

賃貸契約書に見られるクリーニング特約の3パターン

クリーニングに関する特約は、大きく3つに分類されます。まずはご自身の契約書がどれに該当するか確認してください。

類型特約の文例有効性の目安よくある管理会社
① 金額明示型 「退去時ハウスクリーニング費用として 35,000 円(税込)を借主が負担する」 金額が明確で相場の範囲内なら
有効の可能性が高い
大東建託、積水ハウスなど大手
② 金額不明型 「退去時のクリーニング費用は借主の負担とする」 金額が明示されておらず
無効の可能性が高い
個人大家、中小管理会社
③ 包括型 「退去時の原状回復費用はすべて借主負担とする」 通常損耗まで含むため
ほぼ無効(ガイドライン違反)
個人大家に多い
🔑 まずはここをチェック
ご自身の契約書に「クリーニング費用 ○○円」と具体的な金額が書いてあるかどうかを確認してください。金額が書かれていない場合、その特約は無効を主張できる可能性が高いです。

特約が無効になる3つの条件——消費者契約法に基づく判断

クリーニング特約が無効になるかどうかは、主に消費者契約法第10条が基準になります。同条は「消費者の利益を一方的に害する条項」を無効と定めており、クリーニング特約がこれに該当するかが争点です。

条件①:金額が明示されていない

「クリーニング費用は借主負担」とのみ書かれ、具体的な金額の記載がない特約は、消費者契約法第10条に違反する可能性が高いです。

理由はシンプルです。金額が不明なまま「借主負担」とされると、借主は契約時にいくら請求されるか予測できない状態で契約を結ばされることになります。これは「消費者の利益を一方的に害する」典型例です。

また、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも、「退去時のクリーニング費用については、その費用や分担についてあらかじめ明確に定めることが望ましい」とされています。この「望ましい」という表現は行政文書としては強い言い方で、金額明示のない特約は推奨されていないことを意味します。

条件②:相場を大きく超える金額

金額が明示されていても、それが相場を大きく超える場合は不当と判断される余地があります。

間取りクリーニング相場「高すぎる」目安
1R・1K(〜25㎡)15,000〜25,000 円40,000 円以上
1DK・1LDK(30〜40㎡)20,000〜35,000 円50,000 円以上
2LDK・3DK(40〜55㎡)30,000〜50,000 円70,000 円以上
3LDK以上(55㎡〜)40,000〜60,000 円80,000 円以上

たとえば 1K の部屋で「クリーニング費用 60,000 円」と特約に書かれていた場合、相場(15,000〜25,000 円)の 2〜3 倍です。このようなケースでは、「特約の金額が不当に高い」として争うことが可能です。

条件③:重要事項説明で説明されていない

宅地建物取引業法第35条では、契約締結前に重要事項説明を行うことが宅建業者に義務付けられています。クリーニング特約が契約書に記載されていても、重要事項説明の際に口頭で説明がなかった場合、特約の有効性を争える余地があります。

「契約書をよく読んでください」とだけ言われ、クリーニング特約について具体的な説明がなかった場合は、「説明義務違反」を理由に特約の効力を争うことができます

💡 重要事項説明のチェックポイント
入居時の重要事項説明書(「重説」と呼ばれる書類)を保管していますか?そこにクリーニング特約に関する記載や説明があったかどうかを確認してください。記載がない、または説明を受けた記憶がない場合は、有力な交渉材料になります。

実際の裁判例——クリーニング特約が否定されたケース

京都地方裁判所 平成25年判決
契約書に「退去時のクリーニング費用は借主負担」との特約があった事案。裁判所は「特約の内容が不明確であり、通常損耗の範囲について借主に過大な負担を強いるものである」として、特約を無効と判断。クリーニング費用の借主負担を全面的に否定しました。
※ 金額が明示されていなかった点が決め手となりました。
東京簡易裁判所 平成28年判決
契約書に「クリーニング費用 35,000 円を借主負担とする」と具体的な金額が明示されていた事案。裁判所は「金額が明確であり、相場の範囲内である」として特約を有効と判断。ただし、タバコのヤニなどの特別損耗がない部分の清掃費用まで請求することはできないとも付言しました。
※ 金額明示+相場の範囲内=有効となる典型的なケースです。
大阪高等裁判所 平成25年判決
エアコン内部クリーニング費用に関する事案。契約書に「エアコン清掃費用は借主負担」との特約があったものの、裁判所は「エアコン内部の専門的クリーニングは貸主の負担で行うべき」として、特約の適用範囲を限定。特約があるからといって、すべての清掃費用が借主負担になるわけではないと判断しました。
※ 特約の文面が広すぎる場合、裁判所が適用範囲を限定することがあるという重要な判例です。

これらの判例から導かれる結論は明確です:「金額明示+相場の範囲内=有効」「金額不明 or 相場超え=無効の可能性大」。ご自身の契約書がどちらに該当するかで、交渉のスタンスが決まります。

ケース別・クリーニング特約への具体的な対処法

ケース①:金額が明示されていない特約の場合

対応:自信を持って全額拒否を主張してよいケースです。

消費者契約法第10条と国交省ガイドラインの両方を根拠に、「金額が明示されていない特約は無効です」と伝えましょう。管理会社側も判例を知っていることが多く、この指摘だけで引き下がるケースが大半です。

ケース②:金額明示だが相場より高い場合

対応:相場との差額分の減額を求めるのが現実的です。

例:1K で「クリーニング費用 45,000 円」と特約に書かれていた場合。「相場は 15,000〜25,000 円です。差額の 20,000〜30,000 円は消費者契約法第10条の『消費者の利益を一方的に害する条項』に該当するため、相場の範囲内での負担とさせてください」と伝えます。

ケース③:金額明示+相場の範囲内の特約の場合

対応:特約自体は有効だが、清掃の必要性を争う方向に切り替えます。

特約の金額が相場の範囲内でも、「そもそも特別な清掃が必要なほどの汚れはない」と主張することは可能です。特約は「清掃費用の負担割合」を定めたものであり、「清掃の必要性」まで自動的に認めたものではないからです。

📝 実践的な交渉の順序
① まず特約の有効性を争う(金額不明・相場超えならここで決着)
② 特約が有効でも、清掃の必要性を争う(通常損耗の範囲なら必要なし)
③ どうしても折り合わなければ、消費生活センター(188番)に相談

管理会社に送る拒否の文例(メール)

口頭でのやりとりは記録に残りません。必ずメールで書面として残すことが重要です。以下はそのまま使える文例です。

📧 クリーニング特約の無効を主張する文例

件名:退去費用のご請求について(クリーニング特約の件)

○○管理会社 御中

先日は退去立会いをありがとうございました。
ご請求いただいた退去費用明細のうち、ハウスクリーニング費用 ○○円について、以下の理由から負担いたしかねます。

1. 特約の無効性について
本件賃貸借契約書の特約には、クリーニング費用の具体的な金額が明示されておりません。消費者契約法第10条は「消費者の利益を一方的に害する条項」を無効としており、金額が明示されていないクリーニング費用負担条項はこれに該当すると考えます。

2. 通常損耗の扱いについて
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、通常の生活で生じた汚れ(通常損耗)の清掃費用は貸主負担とされています。当方の入居中、特段の汚損や清掃懈怠はなく、請求されているクリーニング費用は通常損耗の範囲を超えるものではありません。

つきましては、クリーニング費用のご請求を取り下げていただきますようお願いいたします。なお、当方に過失があると御社が判断される部分がありましたら、その具体的な箇所・状態・金額の内訳をご提示ください。確認のうえ、対応を検討いたします。

以上、よろしくお願いいたします。

それでも折り合わない場合の最終手段

管理会社が特約の無効主張に応じない場合、以下の手段があります。

  1. 消費生活センターに相談(全国共通 188番)——無料。第三者が間に入ることで管理会社の態度が変わることが多い
  2. 内容証明郵便で正式に返還請求——文例はネットで入手可能。費用は数千円
  3. 少額訴訟(60万円以下の請求)——本人訴訟が可能で、費用は数千円。1回の期日で判決が出る

特に消費生活センターへの相談は、管理会社側に「この借主は泣き寝入りしない」と認識させる効果があり、相談した段階で請求を取り下げるケースも多くあります。

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よくある質問

いいえ。金額が明示されていない場合は、消費者契約法第10条により無効となる可能性が高いです。また、金額が明示されていても相場を大きく超える場合は、不当条項として争えます。まずは契約書の特約に具体的な金額の記載があるかどうかを確認してください。

金額が明示され、かつ相場の範囲内であれば、特約自体は有効と判断される可能性が高いです(東京簡裁平成28年判決参照)。ただし、通常損耗の範囲内の汚れであれば「そもそも清掃の必要性がない」と主張することは可能です。

はい。宅建業者には重要事項説明の義務があり、クリーニング特約について説明がなかった場合は「説明義務違反」として特約の有効性を争う材料になります。重要事項説明書を確認してみてください。

大手は特約のフォーマットが整備されており、金額が明示されていることが多いため、②のパターン(金額明示型)に該当しやすく、無効主張は難しくなります。ただし、金額が相場を超えている場合や、通常損耗分の清掃まで請求されている場合は、交渉の余地があります。

はい。京都地裁平成25年判決では、金額が明示されていないクリーニング特約が無効と判断されました。一方、東京簡裁平成28年判決では、金額が明示され相場の範囲内である特約が有効と判断されています。特約の内容によって結論が分かれるため、まずはご自身の契約書を確認することが重要です。

敷金から差し引く場合、管理会社には費用の内訳と根拠を明示する義務があります。不当に差し引かれた場合は、内容証明郵便で返還を請求するか、少額訴訟(本人訴訟で可能、費用も数千円程度)を検討してください。敷金返還請求権の時効は10年ですので、慌てる必要はありません。

管理会社が独自の「入居者ブラックリスト」のようなものを持っているケースは稀にありますが、法的な信用情報機関に登録されることは一切ありません。また、正当な理由に基づく支払い拒否が次の審査に影響するとすれば、それこそが問題です。不安な場合は、退去時のやりとりをすべて記録に残しておくことをおすすめします。

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